表現コンセプトテストの目的
100億ロケット・マーケティングでは、商品を発売する前に作った商品の売上の可能性を図るために売上予測計算式フォーミュラーVを使ってシミュレーションを行います。
2章でその計算のやり方を述べましたが、計算式の項目の1つに表現コンセプトつたわり率が入っていたことを思い出してください。復習ですが、表現コンセプトつたわり率には、手数ではなく変数を入れて、売上のシミュレーションを行います。入れる変数は0.1から1.0までです。
フォーミュラーVの計算式は掛け算ですので、当然、0.1をかけるのと、1.0をかけるのでは、10倍違ってきます。
ですから社内でテストを行う目的は、発売する前に、表現コンセプトつたわり率を1.0に近づけることに他なりません。1.0に近づけるためには、自分たちが作った表現コンセプトの何が伝わり、何が伝わらないかをテストで見極め、改良のヒントを見つけ出します。
ただテストと言っても、大掛かりなものではく、社内でできる一種の記憶テストです。被テスト者は、新入社員から社長まで、役職、年齢、性別を問いません。表現コンセプト開発に関わったメンバーはすでに内容をしっているので、被テスト社からは外してください。では、表現コンセプトテストの実施手順を説明しましょう。
【テスト手順1】テストに使用する手作り広告を作る
まずテストに使用する手作り広告を作ります。作るにあたって、PCソフトを使って作ってもいいですし、手書きで作っても全く問題ありません。広告のサイズは、被テスト者がみやすいように、大きめのA3サイズで作るとよいでしょう。
手作り広告をつくるにあたって、広告の紙面に入れる要素は図48に明記した1から8です。1の新カテゴリー名から、5のサポート情報までは、すでに表現コンセプトの作り方のところで、それぞれ説明しました。社内で考えた、1から5までの表現コンセプトを手作り広告の紙面の中に入れてください。
とくに、しっかりと伝えなければならないのは、「新カテゴリー名」と商品がどう良いかを示す梅沢式キャッチコピーが重要です。加えて、新カテゴリーの商品は、お客様の潜在しているニーズに答える物が多いので、潜在ニーズを顕在化させる意識喚起メッセージが重要となります。
それ以外の商品名、サポート情報、価格、メーカー名については、小さく表示して大丈夫です。商品名は重要に思えますが、先に述べた通り、発売当初は新カテゴリー名を伝えることのほうが重要です。
サポート情報、価格、メーカー名などは、商品に興味を持った人だけが見る確率が高いので、目立たせる必要はありません。商品イラストは、アンケート調査に使ったイラストや社員があれば、そのイラストや写真を使ってください、特に使い方がわかりにくい商品の場合は、使い方がイメージできるようなイラストや写真を入れるといいでしょう。
加えて広告全体の印象や調子、雰囲気を決める書体や活字の色、あるいは背景の模様・イラストなどは、社内で決めたトーン&マナーのキーワードに合うものにしてください。
では図49の手作り広告の例をみてください。アンケート調査の事例にあげた、1粒満腹菓子のてづくり広告です、手作り広告を作るに当たって、紙面に入れた要素は次の通りです。
①新カテゴリー名「1粒満腹菓子」
②梅澤式キャッチコピー「1粒満腹感が得られます!」
③意識喚起メッセージ「満腹感を味わいたい!でも太っちゃう・・・」
④商品名「まんぷぅ」
⑤サポート情報「植物由来の満腹中秋刺激成分が配合されているので1個で満腹になります」、、、
⑥価格「6個入り六百円」
⑦メーカー名「まんぷく商事」
⑧商品イラスト
加えて、1粒満腹菓子のトーン&マナーのキーワードはまんぷくです。
1から8までの要素をまんぷくというキーワードでビジュアル化したものが図49となります。
【テスト手順2】5秒間テストを実施する
【手順1】で作った手作り広告を使って、次の手順で5秒間テストをおこなってください。
①5秒間、数人の被テスト者に手作り広告を凝視してもらう
5秒間というのは、テレビCMを想定した時間です。広告媒体によって時間を変えてもいいですが、媒体が何であれ、短い時間で伝わるものが良い表現コンセプトなので、1番短い時間の5秒間でテストすることをおすすめします。
②5秒たったら凝視をやめて、記憶をたよりに広告の内容を再現してもらう
手作り広告に書いてあった言葉やイラスト(写真)など、それらの位置も含めて、被テスト者に白紙に書いて再現してもらう。
③書いてもらった紙を回収し、開発チームに渡す
では5秒間テストの実施を漫画で確認していただきましょう。
以上が5秒間テストの流れでした。次の手順に移ります。
【テスト手順3】テスト結果から改良のヒントを見つける
5秒間テスト実施後、開発チームの手元に集まったテスト結果の例が、次ページの図50です。図50では、四人のテスト結果をあげています。
本書では図50の四人のテスト結果を使って、改良のヒントの見つけ方を説明します。
まず表現コンセプトの中で、特にしっかりとターゲットに伝えたいのは、新カテゴリー名と梅沢式キャッチコピーの2つです。この2つで、商品が何であるか、商品がどう良いかをターゲットに伝えることができます。
「1粒満腹菓子」の場合、「1粒満腹菓子」が、新カテゴリー名で、1粒で満腹感が得られます!が梅沢式キャッチコピーです。
さて、テスト結果はどうなっているでしょうか。図50の四人の結果を見ると、新カテゴリー名の1粒満腹菓子は、ほぼ全員が正確にかけています。つまり5秒間凝視して1粒満腹菓子という新カテゴリー名は、しっかりと伝わって記憶に残ったと結論づけることができます。しかし、梅沢式キャッチコピーの「1粒で満腹感が得られます!」については、四人のうち一人は全くかけておらず、残りの三人もほとんど書けていません。
この結果から、商品がどう良いのか、梅沢式キャッチコピーが伝わっていないことは明らかです。それについて開発メンバーで話し合う必要があります。
1粒で満腹感が得られます!が記憶に残らない理由は、まず文字が小さいことです。また1粒で満足感が得られます!は、先の梅沢式聴覚メッセージング法によって。5・7・5の形になっているもののインパクトに欠けます。例えば、1粒満腹!のように、さらに思い切り短く、インパクトを強める必要があります。
次に意識喚起メッセージの満腹感を味わいたい!でも太っちゃうですが、結果は四人とも全く記憶していません。これは、文字が小さいことと、書く1の問題があります。意識喚起メッセージは必ず最初に目に入るようにすることが必要です。
新カテゴリー商品は、潜在ニーズに応えるものが多いので、意識喚起メッセージは重要です。次に商品名ですが、四人のうち二人が商品名をしっかり書いています。
商品名については、先に述べたとおり、発売当初は、商品名よりも、新カテゴリー名を伝えることの方が重要なので、商品名が伝わらなくてもOKです。
次にサポート情報、価格、メーカー名ですが、四人とも全く書けていません。しかしこれらを書けていなくてOKです。なぜなら、5秒間で全て記憶することは不可能です。またこれらの情報は、商品に興味を持った人しかみないからです。
イラストや背景については、四人中四人が丸いお菓子のイラストをいくつか書いています。1粒満腹菓子のトーン&マナーはまんぷくでした。まんぷくというキーワードをビジュアル化したイラストが伝わっていることは良いことです。
【テスト手順4】全体の結果を10段階で評価
最後は、テスト結果の全体を0.1から1.0の10段階で評価します。評価は担当者の主観評価でOKです。ほとんど伝わっていないと思う場合は、0.1、全て伝わっているいると思う場合は、1.0という具合に担当者が判断して10段階で評価してください。もし私が判断するならばこの結果をみて、表現コンセプトつたわり率は0.5という評価をすることでしょう。
繰り返しますが、売上予測計算式フォーミュラーVの表現コンセプトつたわり率には、テスト結果の数値を定数として入れて計算しません。計算式には、0.1から1.01までの変数を入れて、売上をシミュレーションします。
担当者がテスト結果を10段階で評価する目的は、テストと改良を繰り返して、表現コンセプトつたわり率を限りなく100%の1.0に近づけるためです。この点を間違い安いので注意してください。
1粒満腹菓子の5秒感テストで言えば、1回目のテスト結果から、梅沢式キャッチコピーをさらにインパクトを強めた言葉に完了した上でで大きな文字でレイアウトし、意識喚起メッセージも最初に目に入るよう目立つようにつくり直したもので、再度テストを行えば、重要な3要素はほぼ伝わって、表現コンセプトつたわり率は、0.7〜0.8ぐらいになるでしょう。
ちなみに表現コンセプトの再テストを行う場合は、前回と同じ被テスト者でやらないようにしてください。前回のテスト内容を覚えている可能性がありますので、正しい結果が得られない場合があります。
では5秒間テスト結果の評価と分析の手順を、漫画で確認していただきましょう。
以上、漫画では5秒間テストの結果を分析して、開発メンバーは今回のテストの表現コンセプトつたわり率は、50%であるという評価を下しました。
このあと、表現コンセプトつたわり率を100%に近づくよう改良を重ねていくのです。そして確信のモテる手作り広告ができましたら、それをクリエイターに渡してビジュアル化を依頼します。そうすれば、クリエイターから方向性の全く違う広告原稿が出てくる可能性はゼロになり、さらに質の高い広告に仕上げてくれるでしょう。
さらにいえば、実際に使用する広告原稿を使って、このテストを社内で行えば、広告原稿の良し悪しもテストできます。テレビCMの映像でも、クリエイターが作った映像を被テスト者に見せて、15秒のCMなら15秒提示してテストすれば、映像の良し悪しも判断できます。このように簡単なテストで広告の質をあげることができるので、是非実践してください。
最終決定は企業によってさまざま
ところで、最終的な表現コンセプトの決定は誰がどうやって決めればいいでしょうか。というご質問をよくいただきます。これについては企業によって様々です。例えば、2001年に発売された大ヒット商品「塗るつけまつげ」は新カテゴリー名も塗るつけまつげです。
しかし、発売直前までの商品名は、液体つけまつげで新カテゴリー名はリキッドつけまつげでした。
私が試作品をみて、もう一つぴんときませんね。液体という状態を表す言葉より、塗るという行動を表す言葉にした方が良いのでは?とアドバイスした時は、すでにパッケージの印刷に取り掛かっていました。私からピントこないと言われて、化粧品メーカーイミュの担当部長、鳥居さんはとても困った顔をして帰られました。
おそらく液体つけまつげという商品名は、何十年もの候補から、社内でカンカン諤々の会議を行って決めた商品名だったのでしょう。私はそういうことに頓着せず、みた瞬間の感じたままを正直に申し上げたのです。
しかし数日後、鳥居さんは全面的に印刷を止め、商品名も新カテゴリー名もぬるまつげに変える決断をされました。
結果は大正解でした。塗るまつげは生産が追いつかないほど大ヒットし、発売4年後には累計1000万本を超え、2009年からは、スウェーデン、韓国、中国でも販売をスタートし、2014年には、累計5000万本を超え、今も記録を更新し続けています。
このように最後の最後で、1担当部長が決断して、大成功した例もあります。ですから最終的な決定はケースバイケースで、一概にこうすればいいとはいえないのです。理想は開発メンバーが確信を持って全員一致で決めることですが、現実的には意見がわかれることが多い物です。私のこれまでの経験からいえることは、多数決では決めない方がいいということと、社内で5秒間テストを行って、表現コンセプトつたわり率を1.0に近づける努力をすること。最後のギリギリまで粘ることが大事です。
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