人を育てる賃金制度の作り方

賃金の支払い役割は2つあります。ひとつは「経営計画」に対する社員の貢献度を金額にするという役割。もう一つは成長度を見える化する役割です。

賃金は社員1人一人の成長バロメーターなのです。

はじめに

①379万円従業員100人未満の中小企業の平均年収

②500万円従業員1000人以上の企業の平均年収

③665万円東証一部上場企業の平均年収

稼ぐ力=生産性が大きく違うから。

私の使命は小さな会社の生産性を上げること。

従業員100人未満の会社では、経営計画と人事評価制度がない、または運用していない会社がほとんど。

賃金制度は導入手順や使い方を誤ると社員のモチベーションを低下させ、ひいては生産性を下げる要因につながってしまう。

失敗してしまう2つの原因。①会社の生産性向上に取り組む前に導入してしまうから。賃金制度は会社の人件費である給与や賞与を社員に配分するためのルールです。その配分のもととなる原資を確保し、さらに増やしていくには会社の生産性を上げていかなければならない。この生産性を上げる仕組みづくりを先に行う必要がある。これに取り組むことで社員は、この会社は発展し、自分の生活も安定するだろう、将来成長し、利益が出れば賃金に還元されるはずだと実感できるようになる。

②給与や賞与の配分が公平に行われないから。1つ目で上げた賃金へ配分するための原資が十分に確保できたとしても、その配分の過程で納得感が得られなければ、社員の不満につながってしまうこととは容易に理解できる。配分を決める起点となるのがリーダーの評価。リーダーの評価スキルが低いまま導入してしまうため逆効果となってしまう。ここを十分対策することで社員は、給与を上げるためにどうすればよいかわかった、上司の成長支援のおかげで賃金アップできると実感してくれる。

1つ目の「生産性を上げる仕組み」が経営計画、2つ目のリーダーの評価スキルを磨くのが評価制度です。

つまり、経営計画で会社が発展し、その中で自分自身も成長することで年収も上がっていく。そこへリーダーが適正に導いてくれるという実感を社員全員が持てる組織とする必要があるのです。賃金制度を導入するのはこの後です。

こうした理想の組織を目指しながら、賃金制度を導入できる「ビジョン実現型人事評価制度」という独自の取り組みを実践していただくことが本書の目的です。

仕組み通りに導入、運用すれば必ず成果に結びつくことはお約束します。

1.賃金は成長のバロメーター

1.賃金制度はもろ刃の剣

賃金制度をうまく活用しながら正しく「人事評価制度」を運用すれば、理想の人材が育ち、成長し続ける強い組織を作ることができます。

成長し続ける組織を確立するためには、賃金制度を設計する前に、経営計画と評価制度の仕組みを構築し、運用する必要があります。

人事評価委制度は3つの仕組みから構成されている。「評価制度」「賃金制度」「昇進昇格制度」

①評価制度に基づいて給与や賞与を決定します。②昇進や昇格を評価結果にもとづいて検討、決定します③昇進昇格によって給与や賞与もアップすることになります。

賃金制度は、人事評価制度の柱のひとつ。賃金制度の中にも、給与制度と賞与支給基準の2つがある。

2.賃金対する不満は賃金制度で解決できるというのは間違い

社長がえんぴつなめなめで賞与を決めた結果事件が起こる。

重要なのは金額より評価結果

なぜ100円少ないのか、その根拠が必要。差の根拠を評価結果ではっきり示し、納得してもらうこと。つまり賃金に対する不満を解消するには、賃金制度(賞与支給基準)ではなく、評価制度(評価とその納得度)が必要なのです。

3.社長が鉛筆をなめて賃金を決めるのはよくないというのは間違い

評価者であるリーダーが適正に評価を行えるスキルを身に着けていない状態のまま決め、賞与に反映してしまった。

評価者を育てて賃金を決める

評価者を育てて賃金を決める。まずトライアル評価と納得度アンケートを取る。

基本的に3回ぐらいはトライアルを行う。2つのステップが完了するまでは、中小企業は、社長の判断で賃金を決める=社長が鉛筆をなめて賃金を決める方が社員の納得度は高い。

4.賃金制度で社員のモチベーションを上げることができるは間違い

決算賞与を出したり出さなかったりすると、お金で動く社員を作ってしまう恐れもある。

評価制度を効果的に運用すれば、「目標達成の充実感」をもってもらいながら「成長を実感」ででき、仕事を通じた貢献度を社員一人ひとりに伝えることができる。

さらに経営計画の作成と実践を通じて、「会社の理念やビジョン」を社員と共有し、お客様や社会への貢献をあげ、周りの人たちが会社やそこで働いている社員を応援してくれる組織づくりをする。こうした取り組みを通じて社員に働き甲斐をもってもらうことで、組織も発展していくのが、私がお伝えする「ビジョン実現型人事評価制度」です。

5.賃金で社員の成長度を可視化する

賃金に対する不満を評価制度で解消し、経営計画と評価制度で社員のモチベーションアップと成長を図りながら働きがいを実感してもらえる組織づくりを推進することです。

賃金制度の役割は2つある。

①経営計画に対しる社員の貢献度を金額にするという役割。社員がお客様や会社に対してどれだけ貢献したかが、評価結果で明確になる。この貢献度を金額にしたものが賃金だと言える。

②社員の成長度を見える化する。評価制度で経営計画の実現に向け社員を育成していきます。この評価を通じた一定期間の成長を昇給や賞与の増加額として社員に還元する。いわば、賃金は社員一人一人の成長バロメーターなのです。

 

給与設計の4つのステップ

ステップ1 グレードの段階数を決める

①人材の成長ステップ、グレード数を設定する

給与額やそのルールを決める前に、まずグレード・レベル・イメージを作成します。

グレード・レベル・イメージとは、あなたの会社の社員を段階的に育成するためのステップを明確にしたものです。

作成する際には、社員の成長と質とスピードを高めること。もうひとつは、会社の5年後のビジョンと目標が達成できる組織をつくることです。

まずは3つのグレードからスタート。①S(スタッフ)ステージ:役職がない一般社員・②L(リーダー)ステージ:主任・係長などの管理職ではないリーダークラス③M(マネジメント)ステージ:課長・部長などの管理職に当たるクラス

グレードは人材育成のためのステップ。次のような手順でグレードの数とそれぞれのグレードに求める仕事レベルを設定する。

【レベル1】

上司や先輩社員の指示にもとづいて、1つひとつ確認、チェックをしてもらいながら、業務をこなす状態

【レベル2】

配属された部署の基本的な業務の流れを理解し、担当する業務は一人でできる状態

【レベル3】

部署の業務はひととおり把握したうえで、部署やチームのことを配慮しながら仕事を進められる。業務上の課題を発見、改善案などの上司に相談、提案ができる状態

【レベル4】

部署の中で成果を期待できる一人となっている。後輩へ業務上の指導・アドバイスを適切に行える状態

【レベル5】

チームやプロジェクトなどのリーダーとして、複数のメンバーを取りまとめて推進し、成果を期待できる。リーダーシップを発揮しはじめている状態

自社の既存社員がどうやって成長してきたいのか、また今後の目標を達成し、5年後、10年後のビジョンを実現するための人材づくりにはどういう段階を踏むのがふさわしいかをイメージしながら作成していきましょう。

グレードが1段階以上あがることを昇格するといいます。会社が定める一定の基準を満たした社員は昇格し、給与もアップします。

グレード数が多い方が昇格の機会を増やすことができる。グレードに応じて給与の幅が決まりますから、グレードの数が多いという事は、昇格したときの昇給幅が小さくなるため、昇格の基準をより緩やかに設定できます。

中小企業は、複雑な体系にするより、シンプルなルールでわかりやすい体系にしておいたほうが社員の理解が進み、成果にも繋がります。

②各グレードの標準金額をざっくり決める

グレードごとに標準金額を設定していきます。あまり悩まずに思いきって決める。

各グレードの社員が、グレード・レベル・イメージで求められる仕事レベルを遂行出来たらいくらぐらいの給与にすべきかとい視点で金額を考える。

③グレード別に賃金の範囲を決める

グレードごとに賃金の上限と下限の金額を決める。

ここまでで、これから作成する基本給と役職手当ベースとなる賃金の金額が決まりました。このグレード別賃金範囲表をもとに具体的な支給項目ごとに賃金設定をしていく。

ステップ3 役職手当を決める

マネジメント層に魅力を持たせる役職手当の定め方

①役職手当の金額を決める

グレード・レベル・イメージの役職に応じて金額を決めます。主任は最初の役職として1万円としよう。その場合、課長は5万円を超えないと管理職として魅力がないだろうな。さらに部門を統括する部長なら+3万円以上は必要だろうという具合

②管理職層の役職手当の定め方

役職手当を決める場合、気をつけなければならない点がある。それは管理職と被管理職の役職手当の金額の差。管理職とは、労働基準法上の管理監督者(時間外手当の支給対象からはずれる)とします。

つまり時間外手当を支給しない管理職の役職手当は、被管理職の最上位グレードの時間外手当を完全に上回る必要があります。M1グレード以上を管理職とする場合、想定される時間外手当の金額を算出し、これを上回る額を役職手当として定めてください。この考え方に基づいて役職手当を決めていない会社の中には、時間外手当を拭くると、被管理職の給与が管理職を上回る逆転現象が起こっている場合もある。

こうした会社では、管理職に昇格すると仕事に対する責任の重さや範囲が広がるにも関わらず、毎月の手取り額が下がってしまいます。そうなると誰も管理職を目指したいと思わない。

ステップ4 基本給を決める

異なった特性の本給と仕事給で基本給を構成する

①固定給は3つの項目に分解する

グレードごとの標準金額を3つの支給項目に分解します。本給と仕事給と役職手当です。本給と仕事給を合わせて基本給とする。

本給・・・勤続給的な性格を持った、積み上げ型の支給項目

年1回、定期的に昇給する積み上げ型の支給項目です。グレードごとに上限、下限を決めます。現行の賃金から移行する時点では、各社員の現行賃金の額に応じて支給額が決まります。

年1回の昇給額は「本給標準昇格額テーブル」を作成し、評価結果に応じて決定します。降格した(グレードが下がった)場合のみ本給も下がる可能性がある。

仕事給・・・評価結果にもとづいて、成果や貢献度を直接反映する支給項目

評価するたび、あるいは一定期間の評価結果に応じて金額が変動する支給項目です。前回と比較し、評価結果が上がれば金額が上がり、評価が下がれば金額も下がる事になります。通常、半年ごとに変動させるのが最も多い運用パターンです。変動の幅は下位グレードは小さく、上位グレードに行くほど大きく差がつくように設定します。前述の本給と併せて基本給とします。

役職手当・・・役職に応じて支給する給与

役職に応じて一律の金額を決めて支給します。役職手当を決める場合の考え方や手順その際の注意点などは前項でくわしく解説しました。

本書で紹介する賃金制度は、本給、仕事給という性格の異なった支給項目を基本給とし、その構成比を過去の処遇や組織風土、改革の方向性などに応じて決めることで、受難に対応することができる体系となっている。

②本給と仕事給の比率を決める

基本給における本給と仕事給の比率を決めます。勤続給的な性格の本給と、評価結果に基づいた仕事の貢献度で決まる仕事給のウェイトを決めることで、どちらに重点を置いた賃金体系なのかを示すことができる。

A本給:仕事給 7:3

B本給:仕事給 5:5

C本給:仕事給 3:7

という3つのパターンで考えてみる。

A 本給の比率の方が大きいため、勤続給的な意味合いを重視し、会社としては評価をダイレクトに反映するウェイトは比較的小さくしたいことが社員に伝わる。

B 基本給の半分は仕事の貢献度がダイレクトに反映される考え方であるというメッセージを社員に伝える

C 仕事の貢献度が基本給に大きく影響することが社員に伝わる

ポイントは、仕事給は下がる可能性があるため、仕事給の比率を大きくすると、基本給が大きく昇格、あるいは降給するかもしれないというイメージを持つ人が多くなることです。社員は下がる方に敏感。

給与、賞与ともこれまで下げたことがないという会社は、本給:仕事給=7:3か6:4の配分で導入したほうが不満にはつながらない。

5:5で導入するパターンが一番おおい。

③仕事給の金額を決める

いよいよ基本給となる本給と仕事給の金額を検討していきます。まずグレードごとの標準金額から役職手当の金額を引きます。これをグレード別 基本給標準額とします。

次にグレード別基本給標準額に本給と仕事給の比率をかけます。こうして算出された金額が各グレードの本給、仕事給の標準額になる。

この標準額を元に、まず仕事給を決める。仕事給は評価結果をダイレクトに反映する支給項目、つもり評価結果に応じて上がる場合と下がる場合があるとお伝えしました。

そこで、この仕事給の性格を利用して、評価けっかを反映する段階(差額)を設定しながらその範囲を決めていきます。もう少し具体的にいうと、評価ランクがひとつ変わるといくらい金額が変わるかをグレードごとにシミュレーションしながら仕事給の幅を設定します。

そこで各グレードのランク設定の数を決める必要があります。通常SS、S、A、B、C、D、Eという7段階とする場合が多いので、まずは7ランクで作成してみましょう。

前述したように、一般的には、上位グレードにいくにつれて差額を大きく設定します。つまり上位職になるほど、評価結果で差がつく賃金体系にするという事です。上位職の人ほど会社に対する貢献度が大きく、責任の範囲も広い仕事をしているからです。

S1グレード1,000円、S2グレード2,000円、S3グレード3,000円、、、、

次にグレード別仕事給の標準額を各グレードのB評価の金額として中心に置き、上にSS、S、Aの3ランク、下にC、D、E評価の3ランクの金額を先ほど決めた評価ランクの差額に応じて決めていくことで、計7ランクの仕事給額を設定することができます。

④仕事給の金額をもとに本給を決める

こうして決めた仕事給の金額を元に本給の金額を決める。仕事給は7ランクに分けたのに対して、本給は各グレードの上限と下限の金額のみを決める。これは本給には幅をもたせて、現行の給与のばらつきを吸収し、以降を行いやすくするためです。

先ほど本給:仕事給=5:5とすることが多いと述べました。その場合、本給の上限・下限と仕事給の上限・下限の金額は同じ金額とします。つまり仕事給のSS評価の金額が本給の上限、仕事給のE評価にあたる金額が本給の下限となる。

本給:仕事給=4:6とした場合、同じように仕事給上限(下限)額:「本給」上限(下限)額が6:4となるようにします。本給は仕事給に6分の4を掛けた金額という事になりますね。本給:仕事給6:4なら仕事給に4分の6をかけて本給の金額を算出します。

この本給と仕事給を合計したものが格グレードの基本給となる。さらにこの基本給に役職手当を加えて固定給とする。

ここであらかじめ決めておいたグレード別賃金範囲表の金額との整合性を確認します。グレード別賃金範囲表と大きく金額が異なるグレードがあれば評価ランクの差額を調整しながら金額を修正します。

これで固定給テーブルが完成します。

ただし、現状ではこのテーブルの金額は、まだ仮決定という事にしておきます。現状の社員全員分の給与をこのテーブルに当てはめていきます。その過程で矛盾が生じたり、社員が不公平だととらえてしまうようなことが起きた場合、さらに金額を変更する必要があるからです。それでは実際に支給している社員の給与をこれまで作成してきた給与表に当てはめていきましょう。

第三章 中小企業のための給与移行手順とノウハウ

1.中小企業の給与の決め方

中小企業にありがちな誤った給与の決め方 3つのパターン

①えんぴつなめなめ型

②他社(者)依存型

③ことなかれ主義型

①間違った給与の決め方とは

【概要】昇給や賞与のたびに、社長が独自の判断で社員全員の昇給額や賞与支給額を一人一人個別にあるいは他社と比較しながら決めている

【特徴】検討のたびに社長が重視する成果や能力に応じて判断の根拠、ものさしが変わる。その判断理由を記録していないので、社長自身忘れてしまっている。

【デメリット】他の幹部の意見を聞くこともあるが、最終的には社長の判断で決める。そのため他社からするとどう見ても説明がつかない昇給、賞与額となることも多い。例えば後継者やナンバー2の幹部でさえ違和感を覚えることすらある。

【メリット】社長のみの判断なので、一人の判断基準によって決まったと言える。複数人が評価に関わることによる判断のばらつきは存在しない。会社のトップが決めたことなので表面的に不満を言う人はいない。こうした会社ほど社員間で給与を見せ合ったりしている。

②他社(者)依存型 前職の給与が基準

【概要】中途で入社した社員の給与や賞与を前職で支給されていた金額をもとに決めている。その後の昇給や賞与も前職の金額が基準となって決まる。

【特徴】新卒採用を毎年行っている中小企業はまだまだ少ないので、このパターンで入社時の給与支給額を決めている会社は多い。前職を参考にしているので、他社の賃金制度をもとに決まった金額を引き継いでいることになる。特に昨今の売り手市場では、優秀な人材を中小企業で確保しづらいため、自社の標準より高い前職の給与を保証する条件で入社してもらうケースも出てきている。

【デメリット】自社の基準をもとに決まったものではないので、当然、社員間の整合性がない。なぜあの人は成果も出していないのに給与が高いんですかと不満につながる危険性もある。

【メリット】特になし。

 

③事なかれ主義型 前回の金額が基準

【概要】前回の昇給額が〇〇〇円だったから、今回も同じ額を確保しよう。前回の賞与は〇〇円だったから少し上乗せしておこう。など、過去の昇給額や賞与支給額を基準として金額を決めるパターン。

前回の金額を下回らなければ不満はないだろうという事なかれ主義的な発想に基づく。

【特徴】鉛筆なめなめ型、他社依存型と併用する社長も存在する。前回や過去の金額が基準となるので会社の業績や本人自身の貢献度の影響は必然的に少なくなってしまう。

【デメリット】前回の金額が最大の判断基準となるので、特に昇給に関しては前回より少しずつ上げていく積み上げ型となってしまう場合が多い。業績の悪かった年度は、一旦抑える場合もあるが温情主義タイプが多い中小企業の社長は、昨年度の金額を下回る昇給額にはしない人がほとんど。昇給や賞与は基本的に前回以上の額を確保するので、確実に人件費は上昇し、労働分配率の上昇にもつながる。ひいては、人件費以外の成長投資に振り分ける原資が不足し、将来の成長性が見込めなくなる。

【メリット】社員は毎年、前年度以上に給与が昇給し、賞与も増えていくので生活面の安定につながる。勤務年数が長い社員ほど社長や会社に対して忠誠心が高い場合が多いのも特徴に一つ

 

わかっちゃいるけどどうしたらよいのかわからない言うのが中小企業の社長の本音。得に行き詰まるのが、こうした一貫性のない基準をもとに決められている今の社員の給与をどうやって新しい給与体系に当てはめていったらよいのかという点です。

これをきちんと解説した書籍や参考書はなかなか見当たらない。

2.現行給与の具体的な移行方法

一貫性のない中小企業の給与はこうして移行す売る。

営業・営業事務・総務・経理という3つの部署がある。

1つ目は仕事の成果や貢献度とは関係ない項目が多いため。2つ目は中小企業では社員の実態管理が細かくできずに支給の条件から外れたものに継続して支給していたり、条件を満たしているものに支給されていなかったりする。

社員一人ひとりの給与を固定給テーブルに当てはめる。

①社員全員のグレードを決める

社員のグレードを決定することをグレードの格付けと呼ぶことにする。

1.社員の実力や役割を元に決める方法

2.社員の現行給与をもとに決める方法

1.社員の実力や役割を元に決める方法は、求められる仕事のレベルに該当するグレードとする。役職が下がる可能性があり、モチベが下がる。中小企業は、本人に求めたい仕事レベルのグレードに設定するという方法。人事評価の最初は評価が低くなる。

中小企業にありがちな名ばかり役職を整理する。副部長、部長代理、担当部長、次長、課長代理、担当課長、課長補佐、係長。こうした役職は統合・整理するのが理想。

一般職の社員の場合、経験や実績、勤務年数を元に決めていきます。新卒やそれに近い年齢で採用し、入社1年未満の社員がいればS1グレードとなるでしょう。一般職をS3までとしている会社は、基本業務やルーティンの作業が一人でできるレベルか、ある程度、応用やイレギュラーな対応、後輩へのアドバイスなどができるレベルかでS2かS3グレードに当てはめていけば良いでしょう。S4まで設定している場合は、さらにこれまでの会社への貢献度などをもとにS3とS4に格付けしていきましょう。

全社員のグレードの格付けが決定しても部署によっては社員が存在しないグレードが出てくる会社もあると思います。社員数が少ない会社であれば、全社でも社員がいないグレードが出る場合もあるでしょう。

こうした状態もまったく気にする必要はありません。それはグレードの格付けの目的は、職位や給与を決めることではなく、社員の育成だからです。

 

 

第四章 社員のやる気を引き出す「賃金制度」運用のコツ

1.新しい給与の運用ルールとノウハウ

社員のモチベーションを下げないための調整と伝え方

ここまでで、新しい給与体系にもとづいた社員全員の支給額が決まりました。ここからは新しい給与をどのように運用していくのかを説明する。

①本給の運用方法

改定のタイミング:年1回、昇格・降格したとき

本給は1年に1回昇給します。昇格・降格した場合はグレードが変わるので、本給も変わる場合があります。昇格した場合、本給額が上位グレードの下限に満たなければ上がります。降格時に下位グレードの上限より高ければ下がります。

改定時期:決算月の翌月

給与の改定については、春闘としてメディアなどで紹介されるため、4月に決定されるというイメージの方も多いかもしれません。実際中小企業でも給与改定を4月や5月に実施している会社が多いようです。

しかし1年間の仕事ぶりや貢献度を昇給に反映させるためには、会社の決算期に合わせた給与改定がベストです。次年度の人件費を検討したり、その結果を適正に反映したりするならなおさら。

昇給方法:本給は原則的には前年一定額が加算されていきます。その金額を決めるために、本給標準昇給額テーブルをあらかじめ作成しておきます。昇給額はグレードと年間の評価結果に応じて決まります。

ただし、会社が利益や売上などの目標を達成することが、昇給額を確保する条件とします。目標が未達だったり利益が十分に出せなかったりした場合、社長や経営陣の判断で本給標準昇給額テーブルを減額する、あるいは全社員0円とする場合もあります。

本給昇給額の決め方は、まずB評価の金額を年間の定期昇給額として設置します。昇給額は固定給の1%程度を目安に設定すると良いでしょう。これに仕事給と同じ要領で上下の金額を決めます。SS評価を2倍、Eを0円と決め、その間のS、A、C、Dを均等の幅にしている。

本給には、各グレードで上限があり、この金額を超えて昇給することはない。そのため、移行時点でもともと本給額が上限に近い人や同じグレードで在籍年数が長い人は本給がすぐに上限金額に到達する場合がある。こうなるとその後は、本給の昇給はストップします。ただしその後、昇格してグレードが上がった場合は、新たなグレードで毎年昇給することになる。

②仕事給の運用方法

改定のタイミング:年2回 昇格、降格したとき

仕事給は半年ごとに改定する場合がもっとも一般的です。もちろん、毎月、3か月ごと、年1回という改定の運用も可能です。ただし、毎月改定する場合、評価も毎月行わなければならない。

改定時期:決算月の翌月、半期終了月の翌月(半年ごとに改定する場合)

昇格方法:評価結果に連動してダイレクトに変動します。移行時は全社員Bの金額に設定していた場合、次の半年でA評価であればAの金額に、C評価の場合は、Cの金額に動きます。評価をするたびに上下する可能性のある支給項目になります。一旦、A評価でAの金額となり、次の評価もAだった場合は同額のままとなる。

仕事給は下がる可能性もあります。そのため年1回反映のルールで導入すると、給与が下がってしまった人のモチベーションに影響を与える場合があります。

あなたがD評価となってしまい、その結果、給与が20,000円下がったと考えてみてください。1年間下がったままの場合と、半年後には元に戻るかそれ以上の金額になる可能性がある場合とでは、どちらがやる気になるでしょう。もし、年1回の改定だと年収で24万円下がってしまいます。こうなると、モチベーションが下がる人や評価対象期間の後半のみ頑張ろうと考える人が出てきてしまうことも多い。そこで仕事給は変更の期間を半年とし、一度下がっても半年後には挽回できる仕組みにする場合が多い。

③調整給の運用方法

次に調整給をどう運用していくのかルールをしっかり決めておく。再度確認しておきますが、調整給として支給する金額は、本来の給与テーブルからははみ出たもらいすぎの金額です。これを支給し続けてしまうと、役割や仕事ぶりに対して、実際より高い給与をもらえることになってしまい、調整給がある人の方が得をする不公平な給与体系となってしまいます。

また本来支給する必要のない人件費を会社が払い続けてしまうことにつながります。とはいえ、いきなり給与を下げると本人のモチベの低下につながってしまう恐れがあります。そこで総支給額は変えずに新しい給与制度へ移行するために、特別に調整給として支給することにしたのです。

こうしたことから調整給は最終的にはなくすという運用ルールをあらかじめ決めておきます。

調整給の減額方法

①昇給額で吸収する②保証する期間を決める③減額する基準を決める

①、まず昇給額で吸収する方法をご説明しましょう。制度移行後の給与改定時期に昇給があれば、その分を調整給から減額していきます。これを調整給が0円にあんるまで継続して実施する。そのため調整給が0円となるまで他の項目が昇給しても給与総額は上がらないことになります。

具体的には、本給、仕事給、役職手当がアップした場合、その金額と同額を調整給からマイナスします。それでも調整給が残る場合も、給与支給額は変わらないという事になります。通常、この方法はどんな会社でも実施します。

調整給が必要な社員はむしろ勤続年数や年齢で昇給を積み重ね、本人の実力より高い給与となっている場合が多い。順調に減っていく事例は多くはない。

②保証する期限を決める

保障の期限、つまり調整給を0円とする時期を決める。期限がきた時点で調整給が残っている社員はその金額分、給与が下がる事になる。期限の設定には、2つの視点から総合的に判断して決めること。①全ての社員の調整給を0とすることが可能かどうか②会社のこれまでの人事処遇の方針

評価が低い社員は減給や降格が当たり前という風土の会社なら1年でもいい。給与や賞与は下げたことがない会社は長めに設定する事。3から5年。あえて逆にして記号風土を一新する方法もある。

③減額する基準を決める

この方法は、①と②を併用して行う。実際、中小企業で新制度を導入するときには、このカタチで運用するケースが多い。

・年1回、本給昇給時期に調整額の残額50%を減額する

・半年ごとの給与改定時期に調整給の残額25%を減額する

④マイナス調整給の運用方法

給与が各グレードの下限額に届かない人に対する考え方。対処方法は4つ。

①給与を上げる②グレードを下げる③マイナス調整給を支給する④一定期間イレギュラーな本給を容認する

①、該当グレードの下限額まで本給を下げるだけ。給与が上がった人はこれまで少なすぎたひとという事をきちんと社員に説明した上で、導入を図った方がいい。

②、現状の本給が設定したグレードに金額に満たないので、グレードを下げてスタートしてもらおうという運用方法。しかし2点の理由からおすすめしない。

一つ目は本人のモチベーションの低下につながる恐れがある。S3に格付けしようとした社員の現状の本給が、S3の本給下限額に達成していないため、S2スタートにしたとしましょう。自分はS3グレードの実力は十分あると考えて居た人は、S2だと言われたらどうでしょう。二つ目は、下位グレードにも収まり切れない場合がある。昇格するには一定の期間と高い評価を要するため給与が上がりづらい状況となってしまう。

グレードを下げるパターンは、臆した将来の会社をになう有望な若手人材の成長の芽を摘んでしまうことにもつながりかねないので注意が必要です。

③、マイナス調整給を支給する。

 

2.賞与支給基準の設計と運用方法

賞与で社員のやる気と会社の業績を高めるには。

賞与については、業績や成果に応じて支給する賃金という考え方が一般的で、支給額に差をつけている中小企業もひかくてき多く見受けられます。しかし、格差がついているからこそ不満の種につながる危険性もはらんでいる。

①賞与でモチベーションが上がらない理由

①賞与の位置づけと考え方が正しく認識されていない

②賞与のルールが明確にされていない

③評価とその結果を本人に伝える面談が行われていない

①、賞与の支給額は業績などに応じて会社側の経営判断で決めることができます。賞与は会社の業績や自分の成績に関わらず、一定額が確保されているものだという認識を社員が持っている場合があります。これはしばしば賞与が生活給になっているという言葉で表現されますが、主な理由は会社が正しく賞与の位置づけを伝えていないことと、社員側の次のような生活設計にある。

賞与とは会社の業績に応じてその支給総額が決まり、社員の評価結果によって分配され、支給額は毎回変動するもの。この考え方が社員全員にきちんと理解されるまで、賃金規定や賞与支給基準などにも盛り込み、繰り返し社員に対して伝えていく必要がある。そして、支給総額がどのように決まり、どういった基準と評価結果で分配されるのか、あらかじめルールを示し支給後も社員全員に説明していくことが重要。

②、賞与に格差をつけていても、その基準があらかじめ明確にされていなかったり、基準があってもそのとおりに支給額が決められていなかったりする会社があります。いまだにえんぴつなめなめ型で社長が一人で全社員の支給額を決めている会社などもそれにあたり、中小企業には意外と多い。

評価は社長ではなくリーダーの仕事。きちんと賞与支給基準を定め、社員全員に説明した上で就業規則にも明記し、賞与額を決定する仕組みを確立してください。

③、賞与に差をつけるためには、その根拠が必要です。根拠となるのは評価です。評価制度の作り方や運用の手順はのちほど。評価を行い、面談を通じて評価結果とその判断理由をきちんと本人に伝えます。この評価結果に基づいて賞与の支給額を決める。

毎回こうした仕組みと手順を踏んで賞与を支給することによって、社員の賞与に対する不信感や疑問は確実に減っていきます。その結果、納得度を向上させることができ、ひいては仕事に対するモチベーションを向上させるきっかけになる。評価制度をしっかり確立し、評価に対する納得度を高めた上で、ルールに基づいて支給額を決定すること。

②賞与基準の作り方

それではいよいよ賞与支給基準について具体的な作成方法を説明しましょう。賞与は次の2つの要素についてルールを定めます。

①賞与の総支給額を決めるルール

②①を社員全員に分配するルール

①、まず賞与の総支給額を決める基準を明確にします。賞与の定義について「会社の業績に応じてその支給総額を決める」と伝えた。この定義通りに支給総額を決めるルールを考える。

賞与を決めるための業績指標を決める→指標からどうやって支給総額を算出するか決める

まず賞与算定の起点となる、会社の業績指数を決めます。会社の業績に応じて決めるわけですから、会社が自社の成長、目標達成のために重要となる指標とします。と言っても毎年の重点施策などで変わるのでは社員もとまどってしまいますので、少なくとも5年以上は使える指標としましょう。

具体的には経常利益額、営業利益額、粗利益額などです。ここでは私が490社以上に導入した結果、高い納得度が得られ、わからいやすい支給総額の決め方を2つ紹介しておく。

1つ目は経常利益(もしくは営業利益)から算出する方法です。

一定期間の経常利益額×〇〇%で総額を算出する。ポイントはどうやって〇〇%を決めるかです。社員に一番説明しやすいのは、経常利益の25%を賞与として分配し社員に還元するという決め方です。

25%の根拠は、社員への還元、将来への投資、納税、会社に残す(税引後利益として自己資本に充当)の4つに分配するという考え方による。

2つ目は目標の達成率で賞与支給総額を算出する方法です。指標は売上、粗利益額、経常利益などです。

賞与総額を、社員の固定給(基本給+役職手当)総額×一定期間の粗利益額目標達成率に応じた掛け率

ポイントは目標達成率に応じた掛け率をどのように決めるかです。例えば固定給の1.5倍を標準の賞与支給総額と考える場合、目標達成率が100%の時は、掛け率1.5とします。これを基準に達成率が目標を上回った場合は掛け率を大きくしていき、下回った場合は小さくしていきます。もし目標達成の難易度が高い会社の場合は100%達成した場合は標準の賞与支給額を上回る掛け率としても良いでしょう。

②賞与を社員全員に分配するルール

次に①で決めた賞与の支給総額を社員一人ひとりに分配するルールを定めます。まず社員それぞれの賞与支給額は次のようにして計算します。

賞与支給額=賞与ポイント×ポイント単価

この算式で賞与額を算出するためには、賞与ポイントを決め、ポイント単価を算出するためのルールが必要です。賞与ポイントは2つの要素で決まります。グレードと評価結果です。具体的には次のページのような賞与ポイント表を作成し、これに基づいて社員一人ひとりのポイントを決めます。

この賞与ポイント表の設計で、社員間の賞与にどのくらい差がつくかが決まります。グレード感の格差と評価結果による格差の2軸で慎重に検討しながら決定していきましょう。

もう一つの要素、ポイント単価は、次の算式で求めることができます。

ポイント単価=賞与支給総額÷全社員のポイント合計額

①で決めた賞与支給総額のルールにもとづいて賞与の支給総額が決まっているはずです。同じ対象期間の社員の評価結果が出れば社員一人ひとりの獲得ポイントが自動的に決まります。全社員のポイントを合計し、これで支給総額を割ればポイント単価が算出できるというわけです。これを各社員の獲得ポイントに掛ければ、全社員の賞与支給額が決まります。

この賞与支給基準の良いところは、会社の業績と自分の評価の2つの要素で賞与額が決まる点です。つまり、社員全員で頑張って会社の業績が上がれば賞与の支給総額は増え、個人の支給総額もアップします。また個人で頑張って評価結果が高ければこちらでも賞与アップにつなげることができます。逆に自分だけ評価が良くても会社全体の業績が悪ければ、支給総額は少なくなり、個人の支給額にも影響する。

こうした考え方を導入することで、個人で頑張ればよいだけではなく、チームで部門や会社の業績へ貢献するにはどうしたらよいかという考えと行動に社員を導くことができる。

次のページに賞与の仕組みを社員に説明し、理解してもらうための賞与支給基準書の例を掲載しました。賞与支給基準は数値などを自社のものに変えればそのまま活用できるものですので、是非活用ください。

③賞与支給基準の移行期間を設ける

これまで紹介した方法で実際の賞与額を決めると、同グレードで評価結果が同じ人は賞与の支給額も同額となる。もちろん適切な考え方のもとで決定できるので、このまま導入、移行できれば理想なのですが、支給額を実際に算出してみると、これまで支給していた賞与額から大きく変動する社員が出る場合がある。

評価が下がったわけではないのに新ルールを適用すると支給額が下がる人に対してプラスするという調整が必要。これを1から3回程度行い、新しい基準と考え方を十分理解、浸透させた上で完全移行を行う。

 

5.賃金制度で成果を出すために必要な5つのステージ

5つのステージで理想の組織を作る「ビジョン実現型人事評価制度」

賃金で組織を崩壊させないために必要なリーダーの力

①賃金制度はまだ導入するな

賃金制度設計のみあるいは賃金制度を中核とした人事制度を仕事で受けたこともありますが、そうした会社は100%失敗に終わった。

②中小企業のリーダーに欠けている2つの力

中小企業には中間管理職が存在しない。常務、取締役と言った役職を持ったリーダーは存在します。ところがこうした人たちには、管理職として重要な2つの力について認識が欠けていた。

①部門をマネジメントする力②部下を育成する力

③なぜ中小企業には中間管理職が存在しないのか

組織の成長のためにはリーダーの育成が課題だという事を理解しているが、手が付けられてない。

④組織を成長に導く人事評価制度の作り方

この中小企業のリーダーに欠けている2つの力を身に着けさせることができるのが、本書で紹介している「ビジョン実現型人事評価制度」

ステージ1「経営計画」を策定する

ステージ2「評価制度」を構築する

ステージ3「評価制度」を運用する

ステージ4「経営計画」を運用する

ステージ5「賃金制度」を設計する

全体を連動させて運用する。これが理想の人事評価制度のづくりの5つのステージ

 

ステージ1「経営計画」を作成する

社員全員のベクトルを一致させる「経営計画」とするには

①経営計画の実現に必要な10の要素

ビジョン実現シートで全体のイメージをつかんでおく。

【理念】ブロック

①経営理念②基本方針③行動理念④人事理念

【目標】ブロック

⑤ビジョン⑥5か年事業計画⑦戦略

【人財育成目標】ブロック

⑧現状の人材レベル⑨5年後の社員人材像⑩ギャップを埋めるために必要な課題

 

②理念は4つの視点で作成することで分かりやすくなる。

理念ブロックで作成する4つの項目とそれぞれの位置づけ、考え方を紹介

①経営理念 会社は何のために存在するのか、自社の存在意義、最終目的地・ゴールを定めたもの

②基本方針 会社が経営理念に向かって成長していくためにはどんな考え方、姿勢で事業を行えばよいのか。経営理念を実現した時、またその過程で会社が周りにどんな影響を与え、どのように貢献していくのかを明確にしたもの

③行動理念 基本方針に沿って事業を推進し、経営理念に向かっていくために社員に求められる行動・考え方を示したもの

④人事理念 会社の人材に対する根本的な考え方、育成するためのかかわり方、スタンスを明確にしたもの

経営理念は最終目的地。出来るだけシンプルに一つ、一文にすることをおすすめします。

経営理念実現までの指標となる考え方を示したのが、基本方針です。これを顧客、商品、社員、自社、関係先、地域・社会などに対して、それぞれどんな姿勢、考え方で関わり、どのような影響を与え貢献していくのかを文章化します。

経営理念は社員全員で目指し達成するものです。という事は社員全員が常に経営理念に沿って行動できるようになれば、その実現性は確実に高まります。そのためには、社員それぞれが担当する仕事上でどのような姿勢、考え方で業務に当たれば良いのかわかるようにすると良いでしょう。この役割を担うのが行動理念です。

そして理念の実現のためになくてはならない人材に対する考え方が人事理念です。人事理念をもとに社員を育成し、全社員が行動理念にそって行動できるようになると、会社が基本方針通りに動いていることになり、どんどん経営理念に向かって会社が進んでいくことができる。

③3つの要素で目標を定め、5年後のあるべき姿とプロセスを明確にする

理念ができたら理念に到達するまでの通過点、ビジョンを掲げ、そのプロセスを5か年事業計画として数値化します。

そしてこれを達成するための手段、手法を戦略として明確にします。

ビジョン、5か年事業計画、戦略の3つを作成するのが、目標ブロックです。

⑤ビジョン 5から10年後の会社のあるべき姿を明確にしたもの。定量的なビジョンと定性的なビジョンがある方が分かりやすい。特に定性ビジョンは社員がワクワク感を持って、社長と全社員で目指したいと実感できるものが理想

⑥5か年事業計画

5から10年間の数値目標(10年間だと10か年事業計画)を明確にする。年度ごとの損益計算書を作成する。さらにその中で売上については内訳を明確にすることで、どうやって売上目標を達成するのかその手段を示す。

⑦戦略 5か年事業計画を実現するための打ち手、手段、手法を具体化したもの。

この3つの中で中小企業が苦手としているのが戦略です。戦略は、次の項で説明する評価基準に落とし込みます。これにそって社員が行動することで、5か年事業計画が達成できる人材に社員を育てることができます。また5項のアクションプランを通じて具体的な推進計画として実践していくことで、5か年事業計画が達成できる。このように戦略は経営計画の中では最も業績への影響力が大きいにもかからわず、ここに力を入れている中小企業は少ないのが現状。

実はこれが中小企業の稼ぐ力、すなわち生産性に密接にかかわってくる。

経営計画を通じた戦略の推進は間違いなく、あなたの会社の稼ぐ力を高めます。

④人材育成目標を明確にして理想の人材を育てる

会社のビジョンを実現するためには、社員全員が成長しなければなりません。そのためにはどんな人材に成長する必要があるのかを明確にすることが大切です。

これを人材育成目標として経営計画に盛り込み明示します。

⑧現状の人材レベル 社員の現状、強み・長所、弱み・短所・課題を洗い出す。実務面と意識面、強みと課題として次ページにあるような表を作成し社員に意識付けを促す。

⑨5年後の社員人材像 5か年事業計画を達成し、ビジョンに到達するためには、どういう人材に成長してもらう必要があるのかを明確にしたもの。全社員とリーダーそれぞれに求めるレベルを設定する。全社員は7から10項目、リーダーに対しては5項目程度でまとめる。

⑩ギャップを埋めるために必要な課題 現状の人材レベルと5年後の社員人材像の間にある差を埋めるためには、会社としてどんなことに取り組んでいく必要があるのかを明確にsいたもの。

この人材育成目標は、一般的な経営計画には盛り込まれていない場合が多い。繰り返しますが、ビジョンを実現するためには人材の成長が不可欠です。ここをめいかくにしていないと成長に向けた具体的な取り組みは個人任せ、あるいは上司レベルや考え方によってまちまちになってしまいます。結果として会社が必要とする人材レベルへの成長スピードを鈍化させてします。

具体的な人材育成目標を次に作成する評価基準に落とし込み、人事評価制度を運用することで全社員の理想の人材に導いていけるのです。このように、人材育成目標は非常に重要な要素ですので、必ず経営計画に盛り込んでください。

ステージ2 評価制度を作る

社員を理想の人材に育てる評価制度の作り方

経営計画で掲げた5年後の社員人材像に向かって社員が成長していくために必要なのが評価制度です。

評価制度の目的は、会社の理念の実現に向けた目標を達成できる人材づくりです。とくにリーダーに欠けている2つの力のうちのひとつ、「部下を育成する力」を身に着けることができます。

評価制度とアクションプランを通じてリーダーとして必要な実力や部下指導力を十分に身に着けることができるので研修や教育を受ける必要はない。

①経営計画を評価基準に落とし込む

経営計画の推進を実現できる人材づくりのために、経営計画から次の4つの要素を評価基準に落とし込みます。

・5か年計画・戦略・ギャップを埋めるために必要な課題・行動理念

①5か年事業計画で常に社員が目標を意識する

5か年事業計画の業績数値目標から会社の目標達成のために必要な項目を評価基準の事業評価項目に設定します。全社員が目指すべき数値目標を明確にして、いつも意識しながら仕事に取り組むことによって、個人の目標達成から会社の目標達成に結び付けていくため。

具体的には売上高、粗利益、経常利益、さらにはそれを達成するために必要な新規開拓売数や顧客単価等、数値として目指すべき目標はすべてこの業績評価項目に盛り込みます。業種や職種によっても異なりますので、評価基準は職種別に作成します。

【営業職(部門)の業績評価項目】

売上高、売上高前年比伸び率、粗利益(率)、新規開拓件数、顧客単価、契約件数、契約決定率、企画提案件数、訪問件数、経費、クレーム件数など。

【販売職(部門)の業績評価項目】

売上高、売上高前年比伸び率、粗利益(率)、新規開拓件数、顧客単価、商品購入点数、人件費比率、経費、クレーム件数、在庫回転率など。

【製造職(部門)の業績評価項目】

生産高、原価削減率(額)、生産高・一人当たり、リードタイム、歩留まり、設備稼働率、ヒヤリハット提案件数、改善提案件数、製品クレーム件数など。

【企画職(部門)の業績評価項目】

開発商品売上高(販売個数)、在庫回転率(期間)、販促費用対効果、企画・商品提案件数など。

【総務・人事職(部門)の業績評価項目】

研修実施回数、マニュアル改善件数、採用者数、退職者数(率)、改善提案件数など。

【経理職(部門)の業績評価項目】

経費削減額(率)、月次決算完了日、改善提案件数など。

このように会社の目標達成に貢献する数値項目はすべて、業績評価項目として評価基準に盛り込みます。

こうした数値目標を全社、部門(店舗・営業所等)、個人の3つの視点で社員の業績評価項目を作成します。こうすることで、全社員が会社や部門の業績を常に意識しながらチームワークを駆使して行動する組織をつくることができる。

②戦略を実行し、成果を出せる人材を作る

つぎに戦略からこれを実行するために社員に求める行動、役割に落とし込みます。

【入社して1年以内の社員】業務プロセスを理解し、上司の指示通りに行動することができた

【一人前の営業社員】営業プロセスにそって活動を行い、決められたルール通りに進捗状況を報告できた。

【中堅営業社員】1人前の仕事内容が行えていた。営業プロセスを通じて得た成功・失敗体験を部署全体で共有していた。後輩に対してアドバイスができていた

【リーダー営業社員】中堅社員の仕事内容が行えていた。部下と定期的にミーティングの場を持ち、指導を行っていた

【マネジメント営業社員】統括する部門(部署・店舗)の部下全員が営業プロセスに沿って行動することができていた。部下それぞれの得意・不得意を把握し、指導、改善させることで部門全体の成果を高めていた

こうして会社が実行すべき戦略を具体的な行動レベルに落とし込み、評価基準で社員全員に示します。これらを成果評価項目として評価基準にまとめる。

③ギャップを埋めるために必要な課題で理想の人材に必要な能力を身に着ける。

ステップアップしてもらうために必要な要素が、ギャップを埋めるために必要な課題。必要なスキルや能力を能力評価項目として、評価基準に盛り込み、成長を支援していきます。

④行動理念を評価基準に落とし込み、会社の考え方を全社員で実践する

行動理念に直結する行動を情意評価項目として評価基準を作成します。行動理念は経営理念を実現するために全社員に実践してもらわなければならない重要な視点。自社の基本方針の実行につながているのか、評価制度を運用しながら確認し、内容を改善、成果を高めていきましょう。

ステージ3 評価制度を運用する

部下育成ができるリーダーを作る運用の5ステップ

評価者は評価制度の運用を通じてリーダーとして重要な能力、部下育成指導力を身に着けることができます。必ず以下のステップを守る事。

ステップ①

評価者(リーダー)が評価基準にもとづき、被評価者の評価を行う。被評価者も人自身の行動を振り返り、自己評価を行う。評価は必ず本人、直属の上司、その上の上司の3者以上で行う。評価者はそれぞれ別シートで評価を実施する。上司、自己評価は必ず判断理由を具体的に記入する。行動評価はA、B、C。業績評価はSS、S、A,B、C、D、Eの7段階で判断する

ステップ②育成会議

ステップ①で行った評価の評価点を集計し、評価結果も出して3者分を1枚のシートにまとめる。これを元に評価者同士で評価結果を議論した上で相違点を統一し、評価を決定する。また評価結果を元に、部下の次の評価までの間にチャレンジしてもらう目標を共有する。

直属の上司、その上の上司、コーディネーター(社長、人事役員など)の3者ですり合わせを行う。コーディネーターが主導し、判断理由をもとに議論した上で、統一し、評価を決定する。次のステップ、育成面談で本人に伝え、課題を成長のためにチャレンジしてもらう課題を上司2人で共有する。

ステップ③育成面談

評価結果を伝え、次の成長に向けた目標をリーダーと本人で共有する。

必ず事前に育成面談シートを作成し、面談ストーリーを文章化、明確にした上で実施する。上司2人が同席したうえで、直属の上司がメインで行う。成長目標を3つ決めて3人で共有する。

ステップ④成長目標設定

チャレンジシートを使って、本人がステップ③で決めた目標を元にそのレベルとプロセスを決め、記入します。直属の上司が確認し、アドバイスを行い、必要があれば修正。目標は3つに絞る。目標をどこまでやるのか、ゴールを明確に設定する。手順化し明記する。いつまでにどういうプロセスで実行するのかスケジュールを明確にする

ステップ⑤チャレンジ面談

ステップ④で決めたプロセスの進捗状況、達成度を確認し課題を共有。アドバイスを行います。直属の上司が主導し、実践する。毎月必ず実施する。面談時間は10分。

この5つのステップを自らまわすことができるようになれば、リーダーとして必要な部下育成指導力を身に着けたと言えます。

5ステップを推進できるということは部下の仕事ぶりをしっかり観察し、適性な評価が行え、部下のやる気を引き出す面談ができて、部下のレベルに応じた成長目標が設定でき、支援しながら達成に導けるリーダーになっているということだから。

部下の育成においては完璧なリーダー。

ステージ4 経営計画はアクションプランで推進する

部門マネジメントができるリーダーを作るアクションプラン会議

経営計画を実現するプロセスは戦略として経営計画の中で明確にされています。その運用をリーダーに任せることで、戦略推進・進捗管理を行いながら目標達成にむけた部門マネジメントができるリーダーを育てることができます。

中小企業のリーダーは戦略を実践に結び付ける手法や管理方法を学んだことが無いため、どこから手を付けたらよいのかわからない。

アクションプラン会議が戦略を成果に導く。

 

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